少子高齢化が進む日本で、最近注目度が上がっているのが、前回も取り上げた「のりあいタクシー」です。○月○日の△時ごろに××を出発して、◇時ごろに▽▽に着きたい……と予約すると、指定した場所と時間に迎えに来てくれて目的地まで乗せてくれるのが、のりあいタクシーです。通常のタクシーと異なるのは、1台にほかのお客さんと“のりあい”して一緒に移動することですが、そのぶん、料金は普通のタクシーよりリーズナブルです。
こうしたのりあいタクシーに似たサービスとして「デマンドタクシー」と呼ばれるものもあります。デマンドタクシーは、バスのように停留所で乗り降り(出迎えのみ自宅まで来てくれる場合もあるようです)するものを指します。こちらも、料金はバスより高価ですが一般のタクシーよりはお得になっています。
こうして変革の時代が訪れているタクシー業界で、話題を集めている会社が、当連載でも何度かご紹介している「電脳交通」です。
過去記事
電脳交通インタビューvol.1 タクシーの未来はどうなる!? 電脳交通社長に聞く
電脳交通インタビューvol.2 熟練オペレーターのスゴ技を自動化! 電脳交通開発者に聞く
電脳交通の画期的なクラウド型タクシー配車システムは、良くも悪くも家内制手工業的だったタクシー業界を大幅に効率化するだけでなく、最近ではのりあいタクシーやデマンドタクシーでも使われはじめました。
今回はそんなタクシー業界の風雲児ともいえる電脳交通の近藤洋祐社長に、タクシー業界の今、そしてのりあいタクシー/デマンドタクシーの向こうに見える未来について語っていただきました。
「日本は長年、バスと鉄道、そしてタクシーという3つの公共交通システムで、国民の移動を支えてきました。しかし、これら伝統的な公共交通は、人口減少や物価高騰によるコストの問題などから、これまでどおりに運用・維持するのが難しくなってきています。
そのために地域に合わせた新しい交通システムの必要性はどんどん増していて、既存のハードウエアやインフラを使いながら、ローカライズ・細分化されたシステムが出はじめました。のりあいタクシーやデマンドタクシーも、そうした新しい試みのひとつです」
確かに、日本全国で鉄道やバスの廃線や減便にまつわるニュースは増えこそすれ、減ることはありません。同時に、公共交通機関での人手不足も深刻化しているといいます。
「地域住民の高齢化が進んで、鉄道の駅はおろか、バスの停留所に行くのもひと苦労という利用者も増えてきました。そうした人のためのドアツードアの交通期間といえばタクシーですが、既存のタクシーは自由度が高いかわりに、コストはどうしても高くなります。
ですので、タクシーに近い利便性を実現しつつ、より低コストで提供することはできないか……という考えが、ここ数年で急速に広まりました。複数の利用者を順番にピックアップして、相乗りで移動するのりあいタクシーへの注目も非常に高まっています」
そんなのりあいタクシーをもう少しバス的に運用するのが、一般的にデマンドタクシーと呼ばれるサービスです。
「この種の“デマンド交通”のマーケット自体は今後も拡大していくと思います。駅や停留所まで出向きにくい高齢者が増えたことで、従来の鉄道やバスの利用者が減りはじめているのが実情です。そうした問題を解消するのが、自宅前か、それに近い場所で乗降できる、のりあいタクシーやデマンドタクシーです。
タクシーとバス、鉄道などの公共交通システムは、合わせて10兆円ほどの市場規模といわれています。そうした巨大な市場で4つ目の選択肢になれれば、ビジネス的にも十分に将来性があると思います。実際、のりあいタクシーやデマンドタクシーについては、私自身も、“第4の公共交通”になる可能性はあると考えています」
空前の少子高齢化を迎えつつある日本では、これまでの常識にとらわれない第4、第5の公共交通が求められると近藤社長はいいます。
「日本ではどの産業でも、顧客の要求水準が高いですが、タクシーも例外ではありません。最近はそれがカスタマーハラスメントと問題化することもありますが、逆にいうと、そこにはまだまだ進化の余地もあるわけです」
確かに、どんな問題にもかならず裏と表がありますが、近藤社長はポジティブです。
「一部で注目されているレベル5のような完全自動運転も、その社会実装は、日本ではもう少し時間がかかると私は考えています。すでに無人タクシーが走っているアメリカや中国にも視察に行きましたが、そもそも日本とは国民性が違っています。日本では利便性や経済性のために、安全基準を引き下げることは絶対に許されませんから、完全自動運転車が一般道を自由に走り回るまでには時間がかかると思います」
それもまた日本特有の厳しさです。
「配車アプリの普及で変革のときを迎えているタクシー業界ですが、タクシーの究極的なサービスは今も昔も、最短時間で目的地に着ける移動手段であることです。その本質的なタクシーサービスを、今後の日本でも実現・維持していくには、いかに少ない台数で効率よく運用するかが、最も大切です。
普通のナビシステムは基本的に最短距離で案内しますが、時間や交通状況によっては、少し遠回りになっても、より短時間と安い料金で目的地に着くルートをプロのタクシードライバーは知っています。しかし、タクシー会社勤務のドライバーも個人事業主的な勤務形態ですから、各ドライバーのノウハウはあまり共用されないんです。
また、利用者が仲のいい特定のドライバーにしか伝えない情報もあります。例えば“最近ヒザが痛いので、サポートが欲しい”とか“出迎えの時はこの位置に停めてほしい”といった情報です。こうした細かい情報を共有する顧客管理システムと、マップボックスのような精緻な地図データを融合するのが、われわれ電脳交通の大きなテーマです。
さらにいえば、日本には現在、30万人くらいのタクシードライバーがいらっしゃいます。そのすべての経験やノウハウを集約することができれば、これまでにない画期的な交通システムが生まれるかもしれません」
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■著者プロフィール
佐野弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。現在はWEB、一般誌、自動車専門誌を問わずに多くのメディアに寄稿する。新型車速報誌の「開発ストーリー」を手がけることも多く、国内外の自動車エンジニアや商品企画担当者、メーカー役員へのインタビュー経験も豊富。2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員